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 福山駅に到着すると、ホームから福山城が見渡せます。ここからほど近い沼隈町という地区が、伝統の備後畳表の産地です。しかし現在では沼隈町で藺草の植え付けは行われていません。とても残念な事です。今では町の人口の大半が、造船産業に携わっていると聞きます。


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 最高級の備後畳表を織られる、廣川さんを訪ねました。当店では昔から数多く備後中継表や長引表を使ってきた経緯があり、そんな中で育った私には、ここ福山には特別のイメージがありました。
 最初に廣川さんにお会いした時は、緊張して言葉が出ませんでした。廣川さんは言葉少なげの方でしたので、話が続かなかった記憶があります。それでも何回か廣川さんの元を訪ねると、少しずつ畳表の話をして頂けるようになりました。「近い内に刈り取りに3・4日ほど来んか。」とお誘いも頂き、これからもっともっと勉強させて頂きたいと思っていた矢先でした。ブログにも書きましたが、廣川さんが昨年の11月に急逝されました。
 廣川さんの工場も事務所も、今までと何も変わりませんでした。昨年収穫した一番草で、長引表を織っている所です。織機を良く見ると、目立ちの良い表に織りあがるよう、織機の色々な箇所に細かな改良がなされています。


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 この畳表が3年経過した時に、やっと備後表らしさが現れて来ます。一面が金色(こんじき)色に変わり、まるでビニルかと思うような光沢が出て来ます。藺草を麻経糸2本芯で織りこんだ表は重厚で丈夫、足裏で踏んだ感触は他の畳では味わえないものがあります。
 これだけの長い藺草を収穫できる方は、残念ながら福山にはいらっしゃらないはずです。廣川さんが生前に収穫されたこの藺草で織った畳表が、日本一の備後畳表でしょう。


廣川さんが改造された、動力の中継表織機です。多分、製織の途中だったと思います。
この織機で織られた中継表は、京都迎賓館や京都御所に納められています。当店にも1枚保管していますが、それはすばらしい表です。
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最高級の備後地草がこれだけしかありません。この証紙が織り込まれた畳表がいずれなくなる日が来ると思うと、とても残念でなりません。
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 保管されている手織り機を見せて頂きました。ブログでも紹介していますが、この手織り中継表の手間のかかりようは、半端ないです。寺岡さんもそうでしたが、手で噤んだ経麻糸を張るために、70才のおばあさんがこの大きな木槌でくさびを打つ様は凄いの一言です。しっかり張らないと藺切れを起こすからです。
 手織りの中継表は、昔から最高級品とされてきました。しかしそもそもこの表が織られるようになった経緯は、山合いの地区では円座しか作れないような(ロク藺と呼ばれる)背丈の短い藺草が多く、何とかこの藺草を使えないかと考えられたものです。値段が長引表の倍以上したのは、1枚織るのに数日かかるため、その人件費が高かったからです。藺草自体は、長引表に使用する藺草とは全くの別物です。
しかし大変な手間がかかっているので、貴重な畳表には違いありません。


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 廣川さんの奥様ヨシエさんは、長い間ずっと夫婦二人三脚で備後表を織ってこられました。ヨシエさんの目には、本物の備後畳表の姿が焼き付けられています。どうかお体に注意されて、少しずつでも亡き廣川さんが収穫された地草を織って頂きたいと思います。
 備後地草の存続のためなら、私も出来る限りのお手伝いをさせて頂きたいと申し上げ、帰途につきました。

畳‐岐阜ドットコム 有限会社 石河製畳店
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